治験の体験談その2

前回は主に治験の報酬とか安全性の話で終わってしまったので、今回は治験が具体的にどんな感じなのか流れを紹介していこうと思う。

・治験の探し方
自分の場合は確か「治験」でググって探したら治験を実施している施設のサイトが見つかったのでそこに登録した。
他のところに行ったことがないので、他に治験を募集している施設が何種類くらいあるのかとか、それぞれの違いなどはよくわからない。

・応募の仕方
そのサイトに募集している治験の一覧が出ているので、スケジュールや条件を見て応募する。
ただし一度に複数参加することは厳禁なので(複数の薬が投与されると危険だしデータが取れないので)、同時に複数の治験に応募することも出来ない。また、一度投薬まで行くとその後3ヶ月経って薬の影響が間違いなく抜けるまでは他の治験に参加することが出来ないので、どの試験を選ぶかはかなり重要になる。プロニートにとっては通院3回のみとかの報酬が少なそうな治験に参加するのは逆に損という感覚すらある。やはり長期入院試験に狙いを絞りたい。

・健康診断
どの治験でもまずは健康診断を受けるところから始まる。繰り返しになるが健康状態がいちばん重要だからだ。
身長、体重、心電図、血液検査、検尿それから既往歴も確認される。試験の内容によってはそれに加えて特別な検査をされることもある。
健康診断が終わると担当の医師から治験の詳しい内容とリスク、謝礼金の額などが説明され、きちんと説明を受けた上で参加するという誓約書にサインする。
ちなみにこのときの態度も被験者を選ぶときの基準になるらしい。明らかに話を聞く気がなかったりとか、集団行動が出来なそうなタイプは落とされるのだろう。

・選考
健康診断から一週間くらいしてから電話で結果の問い合わせをする。
検査の結果が基準を満たしていたら候補者になれる。
検査の結果が微妙に悪かったときでも1回までは再検査が受けられるチャンスが有る。

・集合
候補者になれたら投薬の前日に病院に集合。
このときの人数は実際に治験に参加できる枠より多めに集められる。
そしてここで再び採血をしてその日のコンディションで最終的なメンバーが決定されるのだ。
全員治験に参加するつもりでスケジュールを空け、コンディションを整えて臨んでいるので、一体誰が脱落するのか、ピリピリした緊迫感が漂う。
普段の治験だと大学生の割合が多いが、2週間以上の長期、高報酬の治験になってくるとそう簡単にスケジュールを空けられるわけではない。
自ずと、全国から集まった歴戦の治験戦士たち、年齢不詳、職業不詳みたいな怪しい面構えの人間ばかりになってくる。
とはいえ彼らも健康診断をくぐり抜けている時点で健康には自信があるおっさん達なので、競馬場やハローワークみたいな不潔そうなおっさんたちともまた違う独特の雰囲気がある。

・選考
採血をしてから選考結果が出るまで1時間程度ロビーで待たされる。
この間はフロアにいれば完全に自由な時間で、漫画を読んだり設置されているテレビを眺めたりして時間をつぶす。
これが試験会場や面接会場であれば、こういう待機時間は他の参加者に対して「自分と比べてどっちが有能そうか」「賢そうか」などを探るようにチラ見したり話しかけたりするものだが、ここでの戦闘力は「健康さ」である。
眠そうにしていたり咳をしたりする相手を見つけては「こいつには勝ったな」と思って自分を安心させるのである。
そうこうしているうちに、白衣を着た医師が登場して結果発表の時間が訪れる。

「では、お名前を呼ばれた方から一人ずつ別室に移動していただきます。〇〇さんどうぞ」

名前を呼ばれた人が勢いよく立ち上がり、誇らしげな顔で別室へと消えていく。
しかし、実はこれ、呼ばれた人から不合格という罠なのである。
別室へ行くと「今回、〇〇さんの結果も決して悪くはなかったんですが、他の方と比べるとこの項目の差で、残念ながら今回はご参加いただけないという判断になりました。もしよければまた別の試験もありますので・・・」といった説明を受けることになる。
さきほどの優越感に満ちた表情から一転、気落ちした顔で、フロアで待つ人達に顔を合わせないように裏から帰っていくのである。

フロアで待つ人達はそうとも知らず、一人、また一人と読み上げられるたびに「次こそ、次こそ俺の名前・・・!」とジリジリ焦りながら待っているのだが、途中で一転「今ここに残った人が参加していただく方になります」と逆転全員合格の福音が告げられ、緊迫した空気が一瞬にして弛緩し、安堵に満たされる。
絶対これ職員も内心では楽しんでやってると思う。

ちなみに、ここでもまだ最終確定ではなく、投薬(治験開始)される翌朝までは予備の候補者が2,3人残される。
候補者の体調が急に悪くなった場合に備えての補欠なのだが、待機でも一泊分の謝礼が1万円くらいもらえる。もらえる分だけマシではあるが、健康診断の予約から数えると半月~1月くらい時間がかかっているし入院分のスケジュールも空けていることも考えると報酬がそれだけではかなり渋いものがある。
俺はこの補欠になったことも一度あるのだが、合格者たちは数十万の報酬金が内定してすっかりくつろぎはじめた中で「だれか急に風邪引かねえかな」と呪いながらコンディションを維持するために水を飲み早めに寝るのは微妙に屈辱的な気分であった。

・投薬
翌朝、体温を測り医者の問診を受けて被験者が確定し、予備待機者は帰される。
投薬は朝食を抜いて朝の10時頃から始まったと思う。
治験は製薬会社からの依頼で病院が実施している形となっており、投薬の瞬間は製薬会社の人間が立ち会って、万一にも手順に間違いがないように厳正に行われる。
自分が参加した治験はどれも飲み薬だったのだが、被験者が一人ずつ5分ずつ時間をずらして呼ばれ、医師から手渡された錠剤を飲み込み、コップ一杯分の水で胃に流し込んで、きちんと飲み込んだことを示すために口を開けて中を確かめられる。
そして採血地獄が始まる。初日はめちゃめちゃ採血の回数が多い
薬を飲んでから15分ごと、30分ごと、1時間ごと、合計で10回以上、15ccずつ採血される。
ひっきりなしに血を抜かれていると血の気が引いてきて、脳貧血になりそうになった。
顔が真っ青になっているのがバレると自分だけ脱落、謝礼金なしになるかもしれないとあわててベッドから起きて廊下を歩き回り、足裏からのポンプで体内に血液を循環させてなんとかしのぎきった。立ち上がった時は危うくふらついて倒れそうになって危なかった。
この初日さえ乗り切れば採血の頻度はどんどん少なくなり、日に1回、2日に1回となっていくので後は楽である。
毎日出された飯を食い、日中はベッドに寝転びながら漫画を読んでダラダラ暮らすだけの日々を満喫すればいい。
退院したあとも一週間後くらいに一度通院して事後の経過を確認するので、その時までは絶対不摂生したり油っこいものを食べるなと釘を差されて終わる。血液検査の結果はマジで鋭敏に出るので、とんこつラーメンやら焼き肉やらで暴飲暴食してデータがめちゃくちゃになると最悪の場合は報酬なし、今後出禁まであるくらいのことを言われる。

・一番しんどかった治験
ここまでで説明したのは楽だったときのケースで、中にはしんどいやつもあった。
投薬後の胃液のpHを継続的に調べるために「胃に鼻の穴からセンサーをつっこんだまま3日間生活する」という試験は話を聞いた時点で嫌だなと思ったし、実際にやってみても聞いたとおりのしんどさだった。
しかし、高額報酬の治験は頻繁にあるわけではない。ただえさえ申し込んでから合格するまでに1ヶ月弱かかるし、治験に参加するごとに3ヶ月のインターバルも必要なので、回転率を考えると選り好みする心理的余裕はあまりないのだ。
健康診断のために病院までわざわざ出向いて半日潰した後に「今回の試験結構辛いと思いますけど耐えられますか?」って言われてもやっぱ辞めますとはいいにくい。数十万もらうためなら鼻からセンサー突っ込んだまま3日間生活することも甘んじて受け入れざるを得ないのである。
ということで、この試験は過酷さからなのか、すんなり合格して鼻からセンサーを突っ込まれることとなった。
「鼻の粘膜弱かったりしますか?途中で鼻血が出たら待機者と交代になりますが」と事前に釘を差されていて「大丈夫だと思います」と答えたものの、わりと年1回くらいのペースで鼻血を出しているので内心ではめちゃくちゃ不安だった。

「鼻の奥に管を突っ込むので、奥まで入ったら鼻をすするような感じでぐっと飲み込んでください」と言って白衣を着たおっさんが俺の鼻の穴に管をグイグイ突っ込んでくる。
耳かきを奥の方まで突っ込みすぎる感覚と若干似ている。明らかに壁にぶつかっててクソ痛い。
最初は「初めての経験なので優しくしてください///」と処女のような気持ちで居た俺だったが「あれ、ひっかかってうまく入れないな」などといいながらグイグイ押されているうちに「もっとうまく入れろこのドヘタクソ!」とおっさんの頭をグーではたきたい気持ちを必死にこらえた。
俺の粘膜が頑張って耐えているのにこの童貞オヤジのテクニックが下手すぎて鼻血が出ようものなら数十万円がパーになるのだ。
そうこうしているうちになんとか鼻を通過したが、喉を通って胃まで入ると今度はめちゃくちゃえづく。気持ち悪いときに喉に指を突っ込んでいるのと同じ感覚がずっと続いているのだ。
どのくらいの太さだったろう。イヤホンのコードが近いだろうか。
硬さはもうちょっと硬かった気がする。
異物感はずっと残り続けているし、首を動かすたびに中で擦れて痛い。
刺さっている方の鼻の穴から鼻水が垂れ続けてくるのもしんどかった。食事の時は喉の奥に小骨が刺さっている痛みを数倍にした感じで咀嚼して飲み込むたびに痛かったし、寝るときもずっと異物感が有って寝付けなかった。あの試験はもう二度とやりたくない。

他にヤバそうな試験としては、「3日間頭に電極をつけて脳波を測定する」というやつもあって、それもめちゃくちゃヤバそうだったので興味があったのだけど結局選考に落ちて受けれなかった。
頭皮にジェルを塗って電極を貼ってからヘッドギアみたいなのをつけるから結構蒸れてかゆいみたいな説明をされていて、胃pHとどっちがしんどいか勝負だなと思っていたので参加できなくて安心したような残念なような気持ちだった。
読者の方で自分はこんなヤバい治験に入ったことがあるなどの経験談があったら是非教えていただきたい。